2015年の国連防災世界会議を機に、福伝をはじめ国際協力NGOの有志が集まり、福島第一原発事故の教訓を市民の立場から世界の人々に伝えることを目的に活動を始めた福島ブックレット委員会(*1)。これまで、冊子「福島10の教訓~原発災害から人びとを守るために」を世界各地の市民有志の協力を得て翻訳し、普及する活動を行ってきました。完成した翻訳版が14言語を数え、各国の協力者との繋がりもできてきた一方で、冊子を配って読んでもらうという伝え方の限界も感じるようになりました。
そこで、今年度から福島の教訓を海外で伝えられる現地の「伝達者」育成と、より使いやすい教材開発を目指した新プロジェクトを開始。2018年1月20日から22日にかけ、福島にて本プロジェクトの戦略会議を開催することになり、福伝は初日の視察訪問も含めたこの会議の福島での事前準備全般を担当しました。
*1 :2018年1月現在の参加メンバー CWS Japan、ピースボート、日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)、国際協力NGOセンター、かながわ開発教育センター、ふくしま地球市民発伝所 の有志
参加者は委員会メンバーに加え、海外5か国から7名のゲストを招きました。トルコの環境活動家でジャーナリストのプナール・デミルジャンさん、クダンクラム原発反対運動の象徴的写真を撮ったインドのフォトジャーナリスト、アミルタラージ・ステファンさん、台湾の緑色公民行動連盟の活動にも参加している至善財団のリー・イェンチェンさん、ヨルダンからは環境運動にかかわるエンジニアのイスマイル・アティヤさん、韓国からは長年国際理解教育に携わってきた小・中学校教員のキム・ガプスンさんとソ・ギョンチョンさん。そして広島大学博士課程に留学中のトルコの若き研究者、プナール・テモジンさんにも参加してもらいました。福島からもフリージャーナリストの藍原寛子さん、福島大学准教授の後藤忍さんに参加いただき、貴重なインプットをいただきました。
初日は現地視察を実施。三春町で福島県環境創造センター(コミュタン福島)を視察したあと、後藤先生からチェルノブイリ博物館との比較を交えて解説していただきました。コミュタン福島は県内の子どもたちが放射線や環境について学ぶ場として一昨年開館。日本に2つしかないという360°の全球型シアターなどお金のかかった施設ですが、展示は原発事故の原因や放射線の健康影響にほとんど触れていません。2020年に浜通りに被災体験などを伝えるアーカイブ施設が別途作られる予定ですが、原発事故後最初に県が作った施設で伝える情報がこれでいいのか?という強い違和感を海外ゲストも持ったようです。
コミュタン前。後藤先生から説明を聞き、これから中へ。
コミュタンの展示を見学する海外ゲスト
浪江町では浪江に伝わる民話や原発事故時の体験を紙芝居で伝えてきた住民グループ「浪江まち物語つたえ隊」を訪問。代表の小澤是寛さんに請戸地区を案内していただいたあと、小澤さんらが制作したアニメーション映画『無念―浪江町消防団物語』英語版を上映し、お話を伺いました。
震災前と後の浪江町の写真などの資料を見せつつ説明してくださった小澤さん
「無念」は浪江町の消防団の経験を基にしたお話。津波の被害に遭った人たちを海岸に救援に行こうとしていた消防団メンバーは、瓦礫の下に取り残された多くの命を確認しながら、その後発生した原発事故による避難命令のため泣く泣く救援を断念せざるを得なくなります。映画の中にはガソリン不足や避難路の渋滞など当時の混乱の様子も描かれ、助けられなかった命に今もお詫びを続けている浪江町消防団の無念な思いが伝わってきます。映画を見る海外ゲストの中には涙ぐんだり目を赤くしたりしている人も。この映画に字幕を入れて自分の国でも上映したい、という声も上がりました。
浪江町請戸地区の慰霊碑の前で
(報告2に続く)