震災・原発事故からほぼ6年8ヵ月となる11月14日、いわき市の四倉中学校で行われた放射能リテラシーの特別授業を見学させていただきました。
授業に参加したのは中学1年生の生徒たち約30名。原発事故当時、小学校入学直前だった子どもたちです。講師は、NPO法人市民科学研究室(通称「市民研」)代表の上田昌文さん。市民研は、「生活者にとってよりよい科学技術とは」を考え、市民向けの講座や提言活動を行ってきたNPOです。チェルノブイリの原発事故以降、「低線量被曝研究会」を立ち上げ研究を続けており、福島第一原発事故後は放射能に関する一般市民向け・子ども向けのイベントなどを積極的に実施しています。
わたしたち福伝は、昨年度から公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが小学校高学年~中高生を対象に作成した放射能リテラシー教材「みらいへのとびら~話してみない?自分のこと、みんなのこと、放射能のこと~」の普及とこれを使ったワークショップの開催に協力していますが、上田さんはこの教材づくりやワークショップ開催にも中心的役割を果たしてきました。
今回は四倉中学校の阿部孝平先生と上田さんが協力する形で、2時間の特別授業が行われました。
最初は「みらいへのとびら」の冒頭に出ている、原発事故からこれまでの自分の経験、自分の気持ちを思い出して書いてみるワークです。生徒たちは各自が覚えていることを付箋に書き、5人ずつのグループの中で出し合いました。当時は5~6歳だった子どもたちですが、「県外に避難した」「外で遊べなくなった」「給食が変わった」「放射能を計る機械を首から下げていた」「転校する人が多かった」「これからどうなるか不安だった」など、様々な経験や思いが語られました。
次に、放射能についての〇×クイズをみんなでやりました。「汚染水がもれていて海の汚染が続いているので、海の魚のほうが川の魚より汚染されてしまっている。」〇か×か?など、かなり高度な内容ですが、「みらいへのとびら」を注意深く見れば正解はどこかに出ています。これも答えをグループで話し合ってから発表しました。
そのあとの時間は線量計を持って外に出、校庭のいろいろな場所の空間放射線量を1メートルの高さで実際に測り、教室に戻ってひとつの地図に書き込みました。除染が終わった校庭でも、少し高めのところ、低いところなどばらつきがあることがわかりました。
最後に「みらいへのとびら」のワーク8、「教えてください、町のこと、山のこと、海のこと」で、福島県外の中学生4人からの質問を読み、自分ならどう答えるかを考えてみました。
生徒たちは熱心に授業に参加していましたが、日ごろ家庭や学校では原発事故や放射能について話し合う機会はほとんどないように見受けられました。
これから中学、高校、大学進学や就職…と成長していく生徒たち。外の世界に出れば否応なしに、ふるさと福島や原発事故について聞かれることになるでしょう。そのとき自分の経験や考えをどう伝えるのか。そしてそれ以前に、自分や家族が経験してきたことをどのように知り、自分の中で理解するのか。そこを空白のままにせず、向き合い、自分で調べ、考える機会をつくることは、おとなの役目だと思います。
しかし、四倉中学校のように積極的にこういった授業に取り組む学校はあまり多くはないのが実情です。
原発関連の仕事にかかわる人も多い浜通り。阿部先生は、生徒たちの家庭環境にも配慮しつつ、「自分の経験を自分の言葉で話せるようになってほしい」と願いを語られていました。
一方で、約7年がたち、震災や原発事故の記憶がない子どもたちが増えつつある今、「みらいへのとびら」がそのまま使えるのも今回対象の子どもたちの年齢がギリギリで、放射能リテラシー教育も次のフェーズに入らなければいけない、という話も出ました。
時がたち、原発事故が話題にのぼることが少なくなっていく中、これからの子どもたちに福島の経験や現実をどう伝えていくのか。いろいろ考えさせられる授業見学でした。(藤岡)
<リンク>
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの放射能リテラシープロジェクト