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【活動報告】国際シンポジウム「どう伝える?福島の教訓~グローバルな視点から考える」

1/21~22福島での戦略会議のあと、一行は大雪の中東京へ移動。1/23は広尾にある聖心グローバルプラザのブリット記念ホールでシンポジウム「どう伝える?福島の教訓~グローバルな視点から考える」を開催しました。

今回来日した海外ゲストのうち、台湾のリー・イェンチェンさん、インドのアミルタラージ・ステファンさん、ヨルダンのイスマイル・アティヤさん、トルコのプナール・デミルジャンさんがパネリストとして登壇。さらに日本からの登壇者として、ジャーナリストで311当時、内閣審議官として首相官邸の広報担当をされていた下村健一さん、日本の放射線教育の問題点について研究と提言を続けてこられた福島大学准教授の後藤忍さん、先ごろノーベル賞を受賞したICANの国際運営委員でもあるピースボート共同代表の川崎哲さんの3名に加わっていただきました。モデレーターはCWS Japan事務局長の小美野剛さんが務めました。

シンポジウムは前半海外ゲストがそれぞれの国の原発をめぐる状況や福島を訪問して感じたことについて発言し、続いて日本の登壇者がそれぞれの考えを発表、その後お互いに質問し合う、という形で進められました。

まず、インドのアミルタラージさんが、福島第一原発事故のあとインドでも多くの人たちが原発の危険性に気づき、原発に対する考えが変わったこと、今回3度目となる福島訪問で福島県の展示施設を訪問し、行政が前向きなメッセージを打ち出そうとするあまり、事故の重大性を軽視した内容になっているのではないかと感じたことなどを話しました。

台湾のリーさんは311後、人権NGO、女性団体、先住民団体、学生グループなど様々な市民グループが加わって数十万人規模の抗議集会が開かれ、台湾政府が脱原発に舵を切る契機となったことを紹介。日本で復興政策の決定プロセスに被災当事者の参画が少ないことに懸念を示しました。

また、ヨルダンのイスマイルさんは、紛争中のシリア国境からわずか8キロの北部地域にあるヨルダン科学技術大学に実験用原子炉があり、テロの標的となることを懸念していること、原発が建設中だが福島訪問後、再生可能エネルギーへのシフトの必要性を確信したことを発言しました。

トルコのプナールさんも、自国が非常事態宣言下にあり、民主主義が制限された状況にある上、周囲の国々で紛争が起きている中で原発をもつことは非常に危険であることに触れ、現在国内で建設中もしくは計画中の3か所の原発のうち、1か所は残念ながら日本の三菱重工と仏アレヴァ社の共同開発であること、黒海沿岸での原発建設による生態系への影響が懸念されることについて話しました。また、トルコがチェルノブイリ原発事故で影響を受けた際、放射能汚染について政府はほとんど国民に知らせなかったことにも触れました。

日本からの登壇者では、まず下村健一さんが、内閣官房に入る前に個人的に関わっていた脱原発市民運動でぶつかった安全神話の壁、内閣官房に入ってから苦しんだ政府に対する反発の壁、そしていま痛切に感じている忘却の壁という3つの壁の話をされました。その後、ぜひ伝えたいこととして、原発の社会構造を考えると市民は無力感をもってしまいがちだが、2012年にエネルギー環境戦略を作り上げた際、国民の力によって2030年代原発ゼロを目指すという決定を得たことは大きなチャレンジだったこと、そのとき国民の力で政策は変えられると実感したことを挙げました。

続いて、福島大学の後藤先生は、安全神話を信じて原発事故のリスクを真剣に考えていなかったことの反省から、思考力が減らされるという意味で「減思力」という言葉を使っていることに触れ、減思力を防ぐためには、不公平な事実や不都合な真実をエビデンスとして記録し、伝えていくことが重要であると話し、そういったエビデンスの例として、原発事故前に子どもたちが作らされていた原発安全標語ポスターや、原子力推進に偏った内容の子ども向け冊子の挿絵などを画像で紹介しました。

核廃絶を目指す国際的な活動にずっとかかわってきた川崎さんは、日本は原爆の被害に遭いながらなぜ50基以上も原発を作ったのかと海外では聞かれ続けること、原発の技術は核兵器の開発から生まれ、原子力の平和利用という考え方もそもそもアメリカが売り込んできたものであることなど原子力と核兵器につながりがあることを理解しなければならないこと、原発への攻撃や核燃料の軍事転用の危険性についてももっと議論が必要であることなどを話しました。

その後のやりとりでは、日本の原発輸出について企業の動きをウォッチする必要性や、日本と他国の地方公務員や地方議員が交流するアイディア、原発推進派・反対派が同じテーブルにつく機会をどう作るか、など様々な話題が話し合われました。

参加者のアンケートでは、「各国の原発に対する多角的な視点が学べた」「NGO、研究者、ジャーナリストなど様々な立場の人の話が聞けてよかった」という感想に加え、「日本の子どもたちに原発事故についてどう伝えていくか、もっと掘り下げたい」など教育に関する意見が複数寄せられました。

告知が不十分で参加者が60名程度にとどまるなど運営面では大きな課題を残しましたが、「伝える」ということをテーマに考えるべきことのヒントがいろいろ得られたシンポジウムでした。