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台湾で豊田直巳さん写真展『フクシマの7年間〜尊厳の記録と記憶』を開催

台湾・高雄市での311市民イベント「福島を忘れるな」の1プログラムとして

今月の311の時期に合わせ、台湾の高雄市で、写真家の豊田直巳さんが撮影した福島の現状を伝える写真展と豊田さんの講演・ワークショップが行われました。これは高雄市に本部があるNGO、地球公民基金が中心となり開催されたイベント「勿忘福島 能源事急」(福島を忘れるな。エネルギー緊急事態)の1プログラムとして、当会(福伝)が提案して実施されたものです。

2015年に当会など複数のNGOで構成する福島ブックレット委員会が刊行したブックレット「福島10の教訓」は同年3月に仙台で開催された国連防災世界会議の参加者向けに日英韓台仏の5言語が配布されました。今回台湾の窓口になった陳威志(タン・ウィジ)さんはブックレットの台湾の言語(繁体字)版の翻訳を担当していただいた方です。2011年の災害から7年を経過した台湾では、フクシマを他山の石として脱原発を決めました。しかし、人々はこれに安心することなく、政策が後戻りしないように厳しく政府を見ていこうという姿勢を保っています。それには、原発に代わるものとして再生可能エネルギーの道を具体的に進めるべきだという声が大きくなっています。

福島ブックレット委員会では「福島10の教訓」をより深く理解していただくため、原発事故以降様々な取り組みで生み出された既存のコンテンツを利用しながら、講演、ワークショップなど組み合わせた教材パッケージを提案して、海外の市民に「福島の教訓」を伝える努力を始めています。今回の企画もその一環として取り組まれました。ブックレットの翻訳活動で作ってきたネットワークを活用し、今後台北市など台湾の他の地域や台湾以外のアジア諸国での可能性も探って行きたいと思っています。

以下は今回の企画について、豊田直巳さんからの報告です。

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日本の東日本大震災と原発震災から7年に関する台湾・高雄市での公開講演会とワークショップの報告(派遣期間 2018年3月6日〜10日)

企画経緯

当企画は、2011年3月11に始まる日本の東京電力福島第一原子力発電所の過酷事故とその災害から7年という状況下に、台湾の高雄市に本拠を置く環境NGO「地球公民基金」が構想していたイベントの「勿忘福島 能源事急」(福島を忘れるな。エネルギー緊急事態)の準備過程で、企画されたものである。

①3月10日〜25日に総合タイトルでありテーマでもある「勿忘福島 能源事急」(福島を忘れるな。エネルギーシフトを早くせよ。)を中心となって準備していた環境NGO「地球公民基金」(高雄市)は、そのスタッフであり、ブックレット「福島 10の教訓~原発災害から人びとを守るために~」の中国語(繁体字)版の翻訳者でもある陳威志氏から、特定非営利活動法人ふくしま地球市民発伝所(福島市)に、協力依頼が1月に行なわれた。

② 特定非営利活動法人ふくしま地球市民発伝所(福島市)は、その代表理事の竹内俊之氏が、発起人にもなっている「豊田直巳写真展『フクシマの7年間〜尊厳の記録と記憶』全国巡回プロジェクト」の写真と、その写真を撮った豊田直巳を、陳威志氏を介して「地球公民基金」に紹介し、また企画への協力を申し出る。

③ 「地球公民基金」(高雄市)など「南台湾廢核行動聯盟」、中山大学(高雄市)HFCC邊緑創造計畫、塩旅社、そして特定非営利活動法人ふくしま地球市民発伝所が主催者となったイベント「勿忘福島 能源事急」が3月10日から25日まで中山大学にある「西子灣秘境隧道」などで一連の行事が開催されることになる。

④ その企画の一つとして上記「「豊田直巳写真展『フクシマの7年間〜尊厳の記録と記憶』」の写真展が盛り込まれ、また、一連の行事のオープニングとして3月7日に塩旅社のホテルの催事場を会場に豊田直巳による講演と、上記ブックレット「福島 10の教訓~原発災害から人びとを守るために~」(中国語(繁体字)版)も参考にしたワークショップが行なわれた。

高雄市での講座、ワークショップ、写真展の契機となったブックレット「福島 10の教訓~原発災害から人びとを守るために~」の内容も拡大プリントされて展示。

記者会見

講座とワークショップに先立ち、3月7日午前11時より1時間、写真展、講座、ワークショップを含むイベント「勿忘福島 能源事急」全体を紹介する記者会見が一連の企画のメイン会場となった「西子灣秘境隧道」で開かれた。
「台湾のNHK」と言われる公共放送テレビ「公視」初め『自由時報』『聯合報』、また専門紙の『台湾民報』『環境資訊中心』などが取材し、その日の午後からは報道された。

一連の企画のメイン会場となった「西子灣秘境隧道」で、ポスターの前に立つ「地球公民基金」理事長・李根政さん(右)と陳威志研究員。

「公視」テレビ(台湾公共テレビ)

20180307 公視中晝新聞

更多新聞與互動請上: 公視新聞網 ( http://news.pts.org.tw ) PNN公視新聞議題中心 ( http://pnn.pts.org.tw/ ) PNN 粉絲專頁 ( http://www.facebook.com/pnn… ) PNN Youtube頻道 ( http://www.youtube.com/user… ) PNN livehouse.in頻道 ( http://livehouse.in/channel/PNNPTS )

『自由時報』  「勿忘福島!核災7週年 西子灣秘境隧道辦攝影展」

http://news.ltn.com.tw/news/life/breakingnews/2358361

『聯合報』 南台灣廢核聯盟今年不遊行 日本記者展福島核災7年況

https://udn.com/news/story/7327/3017413

『環境資訊中心』 「家,已經不是家」 日戰地記者福島攝影展來台

「家,已經不是家」 日戰地記者福島攝影展來台

「核電-擁有光明未來的能源」,距離福島第一核電場四公里的雙葉町,過去因興建了核電廠而變得繁榮,街頭立起唱詠核電的高大牌樓,然而在2011年311福島核災發生後,所有人因緊急避難指令而撤離,從那一天開始,就再也沒有人住在哪裡。 在日本戰地記者豐田直巳2016年拍攝的作品中,雙葉町街頭的核電牌樓已經拆除…

講座(レクチャー)とワークショップ報告

2018年3月7日18時より、中山大学に近い高雄市鹽埕區七賢三路にあるホテルで、一連のイベントの主催者に名を連ねる塩旅社の催事場で、豊田直巳の講座(レクチャー)と、主催者の担当者の司会進行による参加者のワークショップが開催された。まず豊田からブックレット「福島 10の教訓~原発災害から人びとを守るために~」(中国語(繁体字)版)の存在を紹介し、活用を促した。

ブックレット「福島 10の教訓~原発災害から人びとを守るために~」を示す豊田。(写真提供:地球公民基金)

①講座 18時〜19時30分 (日本語〜中国語の通訳は陳威志さん)

 聴講者は主催者の予想の50名を超えて約70名の一般市民が参加した。年齢層は中学生から高齢者まで幅広く、2〜30歳代が多いのが印象的だった。
豊田直巳による講座は、「フクシマのいま」と題した写真スライドを使って以下のような現状報告、取材報告がなされた。
1、7年前の3・11〜フクシマへ、原発から3.5キロに
2、フクシマはいま〜帰還政策と帰還の現状
3、フクシマはどこに向かうか〜矛盾する「除染」と被ばく労働
4、フクシマの子どもたち〜甲状腺ガン検診と、安心できない親(避難家族を含む)

若者、女性の多い約70名の参加者に、挨拶と講座、ワークショップの趣旨説明をする「地球公民基金」理事長・李根政さん。

豊田の日本語による講座を、日本語の語感、間、ニュアンスまでも捉えての陳威志研究員の完璧な通訳に参加者も聞き入ってくれた。(写真提供:地球公民基金)

② ワークショップ 19時30〜20時30分
 当初、ワークショップは30分の予定であったが、参加者が熱心に意欲を持って取り組んだので、予定の倍の60分を要した。
また、終了後も会場に残って、講座でレクチャーした豊田に個別に質問や感想を交換する若い参加者が並んで、ワークショップ終了後も約20分会場が閉められない状況になった。その熱心さに頭が下がる。
 それでけでなく、この「福島の話し」をテレビや新聞報道、インターネットから一方的に受けている市民は、それらの情報に対する信用していいのか否かを含む疑問もあることもわかった。
また、直接にフクシマに取材している取材者や関係者から聞く機会の少ない市民の、フクシマに対する関心の高さも明らかなになった。
今回は、30分という限られた時間しか設定できなったので、主催団体のワークショップ担当者の判断で、テーマを「講座に参加して初めて知ったこと。疑問に思ったこと」の一つに絞った。

子どもの参加者もワークショップに使う記載用紙を配るなど、受け身ではなく積極的に関わったいたことも印象的だった。

予定参加者の50人を超える70名ほどが参加し、3人ずつのグループが20。
 参加者には、中国(中華人民共和国)から、フランスからの留学生も参加した。参加者の年齢は、学齢期の子ども、10代20代の青少年から50歳代まで、幅広く参加し、男女比は正確ではないが4:6で女性が少し多い。

フランスから高雄に留学中の学生も、中国語で意見を述べた。

a. まず3人で、それぞれにテーマを主催者が用意した用紙に記載し合う。
b. その後、3人で「初めて知ったこと。不思議に思ったこと」の擦り合わせをする。
c.  最後に、一人がグループを代表し、テーマ「不思議に思ったこと」を全体に発表。
d. テーマ「講座に参加して初めて知ったこと。疑問に思ったこと」については、ワークショップ前のレクチャー内容が、初耳が多かったために、以下の内容が多かった。

中にはお互いにスマホで調べながらメモを記載するグループも。

3人で知恵と知識を搾り合うグループも。結論は出なくとも「自ら考える」「講座の振り返り」の意義は大きい。

テーマ「講座に参加して初めて知ったこと。疑問に思ったこと」
1、完全には出来ないと解っていながら、なぜ住民は「除染」を望むのか。
2、なぜ住民は東京電力や政府の、帰還に向けた動きのようなやり方に怒らないのか。
3、「フクシマの子どもたちは差別を受けている」と聞くが、本当か。そしてなぜか。
4、被災地では「泥棒やレイプ事件も多発している」と聞くが、本当か。また、本当なら、なぜか。

グループを代表して発言する若者の物怖じしない姿勢にフクシマが身近になった、他人事ではなくなったのではないかと感じられた。

③ まとめ
 結論を求めるのではなく、ワークショップを通して当事者意識を高める、事後の主体性をより高めることを目的としたワークショップであったが、上記のように3人グループ内での、「疑問点の出し合い」「疑問点の整理」と、その後の「代表質問者を選出する」などの恊働作業を通して、個々人の問題意識がより鮮明になったことは成果と言える。
 それはグループの「代表者」の「初めて知ったこと。疑問点」の発表内容のまとまりによく現れていた。また、ワークショップ終了後にも列を作って何人も残りレクチャーした豊田に質問した積極性に象徴的に現れていると思う。

講座・ワークショップ参加者からの声 (翻訳:陳威志)

疑問やメッセージは、終了後に会場の壁に掲示された。(写真提供:地球公民基金)

① 疑問に思ったことや聞きたいこと
* どういう思いで被災地に入り取材されたのでしょうか。
* 震災後、日本の皆さんの電力の使い方が変わったりしていましたか。
* 日本政府は、放射能の拡散に関する情報を、国民より、米軍に先にお知らせしたのは、なぜですか。何か協力を求めたいからですか。
* 避難指示を解除されたあと、帰還しないを選択した人に対して、日本政府は、制度的に自主避難者として見なし、補助や援助をやめますよね。
この状況を日本国民はどう見ているのでしょうか。納得していますか。
* 大量の除染袋(フレコンバッグ)の処理について、 日本政府は対策を持っているのでしょうか。
* 野生動物を含め、ペット、産業動物など、 被災地の動物はどうなっているでしょうか。
* 鉄道の高架が壊れた理由ですが、日本政府のうそ=地震のではなく、 津波でやられた言説に対して福島県民は批判しないのでしょうか?
* 原発事故後の福島と海外の戦地の共通点をレクチャ ーでお話しましたが、逆にその違いが気になる。 そのあたりはどんな感じでしょうか。
* 7年の間、 日本国民の原子力発電への考えは変わりましたか。
 (ウィジ補足:最初はものすごく反対で、 今はそうではないという想定で、出されたコメントかと思います)
* 被災地で長時間にわたる取材をされたが、 お体に何か影響を与えたのでしょうか。
* 取材に国や政府による妨害はなかったんですか。

② 初めて知ったこと。
*全部。特に数値に関しては、以前からいろいろな報道で見たが、基礎知識がないため、よくわからなかったが、ご説明でよくわかりました。
* 行政や政府の立場から考えると、災害の後処理/収束を円滑に進めるため、またパニックを起こさないように、情報を控えめに開示することは、分からなくもないが、
福島原発事故での情報隠蔽や事実歪曲は度が過ぎています。啞然でした。
* 防護服は放射物質を皮膚に粘着するのを防げますが、放射線を防ぐことができないこと。
* 村の未来は、避難指示解除に伴う帰還で希望が見えてくるのではないこと。
* 除染といっても、汚染が消えるわけではないこと。
* 1か月経っても避難していない人またいること。(そしてそれはなぜですか)
* 近代国家のはずなのに、情報隠蔽するなんて信じられない。
* まだまだ震災前の状況に戻ったわけではないにもかかわらず、避難指示を解除すること。
* 除染によって、放射能汚染がさらに拡散、 また被害する人も増えること。
* 原発事故の影響は長期間にわたることを実感できました。

「地球公民基金」李根政理事長と豊田(写真提供:地球公民基金)

「地球公民基金」陳威志研究員と豊田(写真提供:地球公民基金)

写真提供:地球公民基金

ワークショップの「メモ」の掲示を見る参加者。同じ講座を聴いても、お互いに異なる感想や疑問、見解を持つことを再確認しワークショップの振り返りの場になった。

今後の展望

豊田と「地球公民基金」(高雄市)との話し合いによって、口頭ではあるが、以下のような合意をみた。
1.豊田が持参した写真パネルは、台湾に於いては、「地球公民基金」(高雄市)が責任を持って保管し、また、主にNGOや大学などと連携して断続的に写真展を展開する。
2.綠色公民行動聯盟、地球公民基金などのNGOから構成される「全国廃核平台」(原発廃止全国ネットワーク)が台北で写真展の開催を検討中。時期的には6月になる可能性が高い。その際、環境にやさしいエネルギーの教育活動の同時開催も視野に入れている。
3.香港やほかのアジア地域において、もしも写真展の開催を希望する個人や団体があれば、写真パネル郵送などの仕事を地球公民が行う
4.これから出てくる写真展を開催したい個人や団体に対し、今回高雄で実験的に行った講座+ワークショップの同時開催というあり方を推奨、推薦する。

追記

今回、特定非営利活動法人ふくしま地球市民発伝所(福島市)と高雄市の「地球公民基金」との計らいで、写真展、講座、ワークショップと記者会見に参加できたことに感謝を申し上げます。
そして、この経験の中で感じたこと。それは、約70名の一般参加があったワークショップだけでなく、翻訳作業、キャプション作り、会場の下準備、具体的な写真の展示作業など一連の写真展準備も、その恊働行為自体も「ワークショップ」と呼べるものではなかったかと。
その恊働作業を通して、つまり言葉を含めて、伝え合い、理解し合う場を通して、フクシマの現状を高雄の主催者のスタッフや沢山のボランティア、記者会見に参加した子どもたちにも身近に感じてもらえる機会となったと感じました。

写真提供:地球公民基金

写真提供:地球公民基金

以上 

(クレジットのない写真は撮影:豊田直巳)